日常的にたんの吸引や人工呼吸器の管理などが必要な医療的ケア(医ケア)児・者。その一人一人が命をつなぐ日々には、懸命に支える親、家族らの存在がある。今、求められる支援は何か。当事者家族を訪ね歩き、率直な思いを聞いた。(報道部・宮住哲夫 写真部・磯田康一、江田聖弘)
■「大変さ」打ち明けられず…
埼玉県久喜市に住む宮城由美子さん。息子の遼大さん(23)は、生後間もなく、脳性まひに。人工呼吸器や胃ろうなどの対応が必要になった。
自宅でのたんの吸引やおむつ替え、胃ろうへの栄養注入……。ケアは基本的に由美子さんが担う。夜が更けても人工呼吸器の管理などがある。日々の睡眠時間は3時間程度だ。在宅でケアを始めた20年前から、そんな生活が続いている。
「息子のことは全て自分がやらなきゃと一人で抱え込んでいた」
遼大さんが小さい頃は、子どもの体調が悪くなると自分の責任だと感じた。ある時、遼大さんが救急搬送された病院で、看護師が話を聞き、肩を優しく抱いてくれた。ずっと周囲に打ち明けられなかった「大変さ」を分かってもらえた気がして、涙が止まらなかった。
「かつての自分のように相談できずにいる人の力になりたい」と、今は地域の家族会の代表などを務めている。数年前からは、医療的ケア児支援法(2021年施行)を受けて整備された県の「医療的ケア児等支援センター」と連携し、医療、福祉、行政などの関係者と当事者家族が地域での課題を話し合える意見交換会も開く。
「日頃のケアや福祉サービスの利用で“壁”を感じて一人で抱え込んでしまう親は多い。そうした人に手を差し伸べ、寄り添う支援が求められている」と語る由美子さん。今、「何とかしてほしい」と感じているのが、特別支援学校などを卒業した18歳以降の支援だ。
■“大人”になっても支援必要
これまで、遼大さんを数日間預けられる、県内のショートステイ(短期入所)の施設を数カ月に一度、利用してきたが、利用できなくなった。受け入れの対象年齢が原則「18歳まで」だからだ。
週5日、生活介護の事業所を利用しているが、遼大さんに合ったサービスを提供できる事業所に巡り合えず、他市や隣県の事業所を利用している。小児の医療機関からの移行などもうまく進まず、もどかしい。
「18歳を超え“大人”になっても医ケア児には引き続き、家族や周囲の支えがどうしてもいる。子どもと親が安心して過ごせる居場所やサービスが充実してほしい」と由美子さんは願っている。
■「成長はうれしい、でも不安」
大好きな音楽が流れると手を叩いて、全身で喜びを表現する――。横浜市に住む松本美智子さんが優しく見守るのは、息子の一輝くん(12)。今年、特別支援学校の小学部6年生になった。
一輝くんは1歳の時に気管支軟化症が原因で呼吸困難に陥り、一時、心肺停止に。一命は取り留めたものの、低酸素性脳症による身体・知的の障がいが残った。
退院直後は寝たきりで24時間人工呼吸器が必要だった。が、徐々に症状が改善し、5歳ごろからは呼吸器なしで生活できるように。ただ、気道確保のために気管に挿入しているチューブを自分で抜いてしまうことがあり、今も起きている間は目が離せない。胃ろうなどのケアも必要だ。
リハビリや療育によって、ハイハイでの移動や口からの食事など、この10年で一歩ずつ着実にできることが増えてきた。美智子さんは「一時期はケアに追われ、息子の成長を楽しむことができなかった。今は、一つ一つの成長がうれしい」と笑顔を見せつつも言葉を継いだ。「でも、“動ける”ようになることへの不安もある」と。
■“動ける”からこそ、課題も
医ケア児を受け入れる施設では、対象として、身体や知的の障がいが重い“動けない”子を想定していることが多い。ハイハイやつかまり立ちができるようになった一輝くんが、利用できなくなった施設もある。
医ケア児の中には、歩行や移動ができる「動ける医ケア児」がいる。動けると、放課後等デイサービスやショートステイなどの福祉サービスで「安全に見守ることができない」などの理由から、利用を断られるという課題に直面している。美智子さんの周囲にも、同じ悩みを抱える家族は多い。
「家族が子どもの成長を心から喜べるように、“動ける”ことで受け入れ先が限られる現状を変えてほしい」と美智子さんは訴える。
■公明が尽力、今国会で支援法改正へ
在宅で過ごす医ケア児は全国で推計2万人に上るとされる。21年に施行された医療的ケア児支援法によって、家族らの相談に応じるコーディネーターを配置した「医療的ケア児支援センター」が全都道府県に整備されるなど、国・自治体による支援が進む。さらなる充実へ、公明など超党派の医療的ケア児議員連盟が同法の改正案をまとめ、今国会への提出、成立をめざしている。
改正案には、18歳以降も切れ目なく医療・福祉サービスを受けられるための環境整備や、保育・教育、就労などにおける支援の充実、医療的ケア児支援センターの機能強化などが盛り込まれた。また、重い身体・知的の障がいがある重症心身障がい児・者を支援対象に加える。
医ケア児の家族会の全国組織「全国医療的ケアライン」が今年実施した実態調査では、教育や福祉などの関係機関との連絡・調整を主に家族が行っていると答えた人が8割を超えた。いまだ家族が重い負担を担っている状況は変わっていない。
同調査には、「18歳以降の人生のほうが長いのに支援が行き届いていない」「制度はあっても実際に使える場所がなく、休息がとれない」との声も寄せられている。
公明党は、21年の支援法の成立など、医ケア児を支える環境の整備に尽力してきた。超党派議連で事務局長を務める里見隆治参院議員は「医ケア児や家族が地域で幸せに暮らし続けられるよう、国・地方の議員ネットワークで支援を充実させていきたい」と決意を述べる。

公明新聞電子版 2026年05月29日付


